2018年3月、がんに対する放射線治療の効果を高める新たな治療技術が、アメリカのトーマ
ス・ジェファーソン大学のEisembrey博士らにより発表され、イギリスのInternational Journal of
Radiation Oncology誌に掲載されました。

その技術は、従来の放射線治療にマイクロバブルと超音波を用いるという安全かつ画期的な
方法です。

■マイクロバブルが放射線治療の効果を促進する
放射線治療は、さまざまながんに用いられる標準治療の一つです。ガンマ線などの放射線の
パワーで細胞のDNAを破壊して、がん細胞を死滅させる方法です。放射線は、直接がん細胞
を殺す他にも、がん細胞の周りにヒドロキシラジカルという非常に毒性の高い物質を発生させ
ることによってもがんにダメージを与えるのですが、このヒドロキシラジカルを発生させるため
には、材料となる酸素が必要になります。

じつは多くのがん細胞は、正常組織に比べて、酸素を供給する血流が乏しく、常に酸素が少
ない低酸素状態で生存していることがわかっています。そのため、放射線を用いたヒドロキシ
ラジカルの効果には限界がありました。

今回Eisembrey博士らが見出した技術は、がんの部分に、マイクロバブル水を使って大量の
酸素を送り込み、放射線治療を増強する方法なのです。ちなみに、マイクロバブルとは“微細
な気泡”のことで、その気泡の大きさは直径がわずか1000分の1ミリほどです。
マイクロバブルは、通常の泡よりも壊れにくく、がん細胞の中部まで、酸素の泡を運ぶことが
できるのです。

■乳がんのマウスモデルで効果を確認
Eissembrey博士は、ヒト乳がんを移植したマウスを使って実験を行いました。まず、がんの部
分にカテーテルを挿入し、酸素を充填(じゅうてん)したマイクロバブルを導入。次に、同じ部
位に超音波をあててマイクロバブルを破壊して、がんとその周囲を高酸素状態にし、すぐに放
射線を照射しました。

その結果、マイクロバブル+超音波+放射線で処置したマウスでは、放射線治療のみの場
合に比べて、乳がんの増殖がおおよそ1カ月抑えられ、病状に改善が認められました。
マイクロバブルと超音波による処理の間、特殊な画像検査技術で調べたところ、マイクロバブ
ルから出た酸素が、がん細胞とその周囲に達している様子も確認できたそうです。

■将来的にはヒトへ応用も
現段階では、マウスを使った実験レベルですが、マイクロバブルと超音波を用いた新技術は、
害が少なく、放射線治療の効果を高めるものとして、将来ヒトへの応用が期待されます。

医学博士・元医学研究者
榎本 蒼子

2009年 博士号(医学)を早期取得の上、京都府立医科大学大学院・医学研究科を卒業
2009年 (独)日本学術振興会・特別研究員PD (Postdoctoral fellow)
2011年 京都府立医科大学大学院・医学研究科・博士研究員
2011年 京都府立医科大学大学院・医学研究科 総合医療・医学教育学 助教
2015年 京都府立医科大学大学院・医学研究科を退職

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