私たちの腸内には、数百種類、数でいうと約100兆個の腸内細菌が住んでいるといわれてい
ます。腸内細菌は、食べた物を消化して便を作ったり、体に有用な代謝産物を生成したりして
います。最近では、腸内細菌が心臓病や糖尿病、がんなどに関連することが多くの研究から
明らかになっており注目を集めています。今回は大腸がんと腸内細菌の関係についてまとめ
ます。

■腸内細菌が体に与える影響とは
腸内細菌は、大きく3種類に分けられるといわれています。ひとつはビタミンや酢酸などを産
生して人に良い影響を与えるビフィズス菌や乳酸菌などは、有用菌または善玉菌とよばれて
います。一方で、人にとって有害な毒素や発がん物質を産生するような黄色ブドウ球菌、大腸
菌(毒性株)、ウェルシュ菌などは有害菌、または悪玉菌とよばれます。

そして、善玉菌と悪玉菌の両方の性質をもつ中間的な立場にある菌が日和見(ひよりみ)菌です。
中間的な立場にある日和見菌は、腸内細菌のバランスが乱れて、例えば悪玉菌が優位になってしま
うと悪玉菌の方へ傾いてしまい体に悪影響を及ぼすことがあります。

腸内細菌のバランスが整っている状態では、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の均衡が保たれて
います。腸内細菌のバランスがよいと、毎日ストレスなく排便があり、体の調子もよくなると考
えられています。しかし、偏った食生活やストレス、抗菌薬、加齢などによって腸内細菌のバ
ランスが乱れると便秘や下痢になることがあります。また、最近の研究では腸内細菌のバラ
ンスが乱れると肥満や糖尿病、心臓病、膠原(こうげん)病、腎臓病、がん、うつ病、アレルギ
ー疾患など多くの病気の引き金になることが指摘され注目を集めています。

2016年の日本における統計調査の結果、大腸がんは男性の死亡原因3位、女性の死亡原因
1位であることが明らかになりました。大腸がんの発生にも、腸内細菌が関わるといわれてい
ます。

■大腸がん患者における腸内細菌の特徴
まず大腸がん患者における腸内細菌の特徴を研究した報告をいくつか紹介します。アメリカ
で行われた研究では、44人の大腸がん患者と健常者の腸内細菌を解析し、大腸がんの粘膜
組織においてFusobacteriumやProvidenciaという腸内細菌が多く発見されることを明らかにな
りました。

また、別の研究では大腸がんの組織において病原性大腸菌やStreptococcus
bovis、Clostridium cocoidesなどが健常者に比べて多く発見されることがわかっています。
このように、今までの研究結果から大腸がん患者の腸内では、健常者に比べてある種の腸
内細菌が多いことは事実のようです。では、ある種の腸内細菌はどのようにして大腸がんを
引き起こすのでしょうか。

■腸内細菌が大腸がんを起こすメカニズム
アメリカの研究チームは、腸炎を起こすマウスにある種の大腸菌を感染させると大腸がんを
発症することを報告しています。大腸菌は、今までに報告されている研究結果から大腸がん
患者の腸内で増えていることを確認できた腸内細菌のひとつです。また、研究チームは大腸
菌の代わりにフェーカリス菌を感染させてみましたが、大腸がんの発生は認められなかった
そうです。そこで、同研究チームはある種の大腸菌がなぜ大腸がんを引き起こすのか詳しく
調べました。

すると、DNAにダメージを与えることでがんを引き起こすようなタンパク質を合成
するはたらきが大腸菌にあることがわかりました。今回の研究から、炎症によって腸内細菌
のバランスが乱れたところに腸の粘膜のがん化を促進するような特定の腸内細菌が増えると
大腸がんを発症する可能性のあることが明らかになりました。

また、日本の研究チームはがんに付着している腸内細菌が炎症反応を起こすことで、がんの
増殖を促進すると報告しています。さらに同研究チームが大腸がんの内部に存在する腸内
細菌を解析したところ、大腸がん患者の大腸粘膜に認められることの多いFusobacteriumであ
ることがわかりました。

今までの研究結果をふまえて、今後は腸内細菌を調べることで大腸がんの早期発見が可能
になるかもしれないと期待されています。また、新たな大腸がんの治療ターゲットとしても腸内
細菌は注目を集めています。

医師・医学博士 総合内科専門医/腎臓内科専門医/透析専門医
大塚 真紀

都内の大学病院に所属し一般内科や腎臓内科外来、透析管理などをしていたが、夫の仕事のため現在はアメリカ在住。現在は育児をしながら、在宅で医療記事の執筆や監修、医学論文の翻訳などをしている。信頼性の高い情報を選び、わかりやすく読者のためになる記事の作成を心がけている。今まで執筆・監修で携わってきた記事は500記事以上。

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