■私たちの体は慢性的な運動不足に陥っている
私たちの生活は日々進化しています。「生活の進化」というのは「生活が便利になること」を意
味しています。生活が便利になることによって、私たちの肉体的負担は減ります。蛇口をひね
れば水が出るし、どこかへ行くときは車や電車など乗り物が運んでくれます。また、エレベータ
ーやエスカレーターを使えば立っているだけで上の階へ連れて行ってくれます。一昔前であ
れば、自らの体を動かしてやらなければならなかったことが、今やそのような苦労はありませ
ん。

このように、生活が進化することで私たちは生活の利便性を手に入れてきました。しかし、そ
れによって失っているものもあります。その内の一つが体力です。利便性の向上により私たち
は以前よりも体を使わなくても生活できるようになったからです。つまり、私たちの体は慢性的
な運動不足に陥っているのです。

■運動不足はがんの発症リスクを高めるのか?
最初に結論から書きますと“Yes”です。運動不足はがんの予防だけでなく、あらゆる病気(特
に生活習慣病)の予防にとって大変重要な要素です。規則的な運動によりがんの発症リスク
は軽減し、さらにがんによる死亡率も減少することが疫学的データによってわかっています。(1)

運動不足とがんの発症リスクについて書かれた論文はたくさんありますが、その内の一つの
論文では「身体活動が不活発な人ほどがんによる死亡リスクが高い」と結論付けています。(2)
このように、がんの予防のためには日々の運動は欠かせません。

■定期的な運動はがんにかかりにくくする
運動によってがんの発症率が低下することは、これまでさまざまな研究によって証明されてい
ます。73個の論文をまとめた報告(レビュー)によると、「定期的に運動をする女性はそうでな
い女性に比べ25%も乳がんに罹りにくい」ことがわかっています。(3)
また、がんの治療中または治療後の人たちにとって、運動は筋力や筋持久力を向上させる
だけでなく、生活の質を高めるとも言われています。(4)

先述したように、私たちの生活は今後ますます便利になり、体への負担は軽減していきます。
そういう時代だからこそ、意識して体を動かすようにしなければなりません。普段から運動を
行うことで体の状態を整えておき、病気に対していつでも抵抗できる体力を身に着けておくこ
とが重要です。

今まで運動習慣がなかった人は、まずは運動を習慣化することから始めるとよいでしょう。そ
のためには、最初からハードルを上げるようなことはせず、週1回からでもよいのでとにかく実
行に移すことが大切です。

目標は1回30分の運動ですが、運動習慣のない人にとっては苦痛かもしれません。その場合
、1回30分は将来的な目標としておき、15分でもいいので毎日運動をしてください(それでも無
理という人は5分でも大丈夫です)。具体的な運動の種類や方法については今後詳しく解説し
ていきます。

参考文献

Bittoni MA, Harris RE, Buckworth J, Clinton SK, Focht BC. Abstract 5043: Physical activity
and the risk of lung cancer death: Results from the Third National Health and Nutrition
Examination Survey. Cancer Research. 2014; 74(19).
Ekelund U, Steene-Johannessen J, Brown WJ, et al. Does physical activity attenuate, or
even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised
meta-analysis of data from more than 1 million men and women. Lancet2016;
388(10051):1302-1310. [PubMed Abstract]
Lynch BM, Neilson HK, Friedenreich CM. Physical activity and breast cancer prevention.

Recent Results Cancer Res. 2011;186:13-42.
R. Segal, C. Zwaal, E. Green, J.R. Tomasone, A. Loblaw, T. Petrella, and the Exercise for
People with Cancer Guideline Development Group. Exercise for people with cancer: a
systematic review. Curr Oncol. 2017 Aug;24(4):e290-e315

スポーツカイロプラクター・医学博士(スポーツ医学)
榊原 直樹

1992年東北大学(動物遺伝育種学専攻)を卒業後渡米。1997年にクリーブランドカイロプラクティックカレッジを卒業後、カリフォルニア州のDoctor of Chiropracticライセンスを取得。2006年にはトリノオリンピックにスポーツドクターとして帯同。2007年に帰国。現在は名古屋にて施術の傍ら講演、執筆、スポーツの世界大会帯同、スポーツ医学の研究などの活動をしている。日本スポーツ徒手医学協会(http://jamsm.org/)代表。元岐阜大学大学院医学系研究科非常勤講師。医学博士。

主な著作:触ってわかる美術解剖学(邦訳、2012)、人体デッサンのための美術解剖学ノート(邦訳、2014)、シェパードの人体ポーズと美術解剖学(邦訳、2017)
主な執筆論文;Influence of lumbopelbic stability on deadlift performance in competitive powerlifters. Naoki Sakakibara, Sohee Shin, Tsuneo Watanabe, and Toshio Matsuoka; SportLogia, 10(2), 89-95, 2014

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