がんなどの大きな疾患にかかると、大切な仕事、人間関係などを失うことがあります。病気を宣告
されたことにより、これまでの平穏な日常生活も失われるかと思います。そのようなとき、人は誰し
も大きな「悲しみ」を感じます。ハーバード大学の精神医学の教授、リンデマン博士は、「悲しみに
は段階がある」という考え方を提示しています。また、悲しみに打ちひしがれた人が悲しみを「乗り
越える」には苦しい闘いがあり、周囲の援助が非常に重要であると言っています。

今回は、喪失体験を経て悲しみの最中にある人と、その周囲の人向けに、「悲しみ」の正常な反
応と病的な反応についてご紹介していきたいと思います。この記事を読まれても、「心から」納得
することは難しいかもしれません。ですが、「まずは頭で」理解しようとしてみてください。喪失体験
の後、多くの人間にどのような心身の反応が起きるか知ることは、悲しみを「乗り越える」ひとつの
手助けになることと思います。

前述のリンデマン博士によると、悲しみには下記の10段階があると言われています。全員がすべ
ての段階を通るとは限らず、順番通りになるとも限りません。また、一つの段階から次の段階にき
っちり動くわけではなく、すすんだりもどったりすることが多いと言われています。

第1段階:ショック状態に陥る
第2段階:感情を表現する
第3段階:憂鬱(ゆううつ)になり孤独を感じる
第4段階:悲しみが身体的な症状として表れる
第5段階:パニックに陥る
第6段階:喪失に罪悪感を抱く
第7段階:怒りと怨みでいっぱいになる
第8段階:元の生活に戻ることを拒否する
第9段階:徐々に希望が湧いてくる
第10段階:現実を受け入れられるようになる

第1段階の「ショック状態に陥る」とは、悲劇的な体験に反応して一時的に感情が麻痺してしまうこ
とです。「悲しいはずなのに、なぜ何も感じないんだろう」「涙が出てこなくて不思議」などと表現さ
れる人が多いです。例えば、斎場で気丈にふるまって葬儀をすすめる親族や不合格通知を受け
取ったにもかかわらず合格者を笑顔で祝福する受験生などは、この段階にあります。

ショック状態は、おおよそ数分から数日続きます。もし1カ月以上続くようであれば、不健康な反応
を起こしている可能性が高いと思われますので、精神科受診をおすすめします。また、周囲の人
は、一見元気そうに見える相手に対して、「話をきいてほしくなったらいつでも連絡してね」「いつま
でも強がらないで、素直に感情を表現してね」などと声をかけ、悲しみの第2段階にすすむのを手
助けするのが望ましいと思います。次回は、第2段階以降についてご説明したいと思います。

医師・精神科医
樋野 (ひの)
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