がんの標準的な治療といえば、外科療法(手術)、薬物(化学)療法(抗がん剤治療)、放射線
療法ですが、これまでにない新しい治療方法として「ウイルス療法」が注目されています。ウイ
ルス療法とは、人体に害がないように改変した特殊なウイルスをがんにだけ感染させ、直接
がん細胞を殺す…。まさに毒を持って毒を制す方法です。

2018年7月、アメリカのデューク大学から、ポリオウイルスを使った再発性膠芽腫(グリオブラ
ストーマ、グレード4)に対する新たな治療に関する論文が発表されました。膠芽腫は脳腫瘍
の一種ですが、最も悪性度が高く、進行も早いがんです。現在有効な治療方法がなく、5年生
存率は数%と言われています。

膠芽腫の治療の難しさの大きな要因は、その構造的な特性にあります。膠芽腫は、脳の神経
細胞を隙間なく埋めるように広がる神経膠細胞と呼ばれる細胞にできるため、これまでの方
法では、正常な神経細胞を傷つけることなく、がんの部分だけを取り除くことが不可能でした。

新たに開発された技術では、腫瘍の部分にカテーテルを介してポリオウイルス液を注入し、
ウイルスの力を使って腫瘍を破壊していきます。この技術の優れている点は、使用するポリ
オウルスが腫瘍化したグリオーマとその微小環境だけをターゲットにして感染するよう、遺伝
子改変されているため、健康な細胞に害を及ぼすリスクを最小にできることです。またウイル
ス液の注入には数時間かかりますが、注入は一度きりで済むこともポイントです。

このポリオウイルスを使った臨床試験には61人の再発性膠芽腫の患者さんが参加しました。
なにもしなかった再発性膠芽腫の患者さん104人と比較したところ、全生存期間中央値
(50%の人が亡くなる期間)と、治療から2年後、3年後の生存率に違いがあることがわかりま
した。全生存期間中央値は、なにもしなかった群が11.3カ月であったのに対し、ポリオウイル
ス療法を受けた群では、12.5カ月でした。さらに治療から2年後の生存率はこれまで14%であ
ったのが、21%へ、3年生存率は4%であったのが21%へ向上しました。

安全性等についてはまだまだ詳細な検討が必要な段階ではありますが、この新しいウイルス
療法の実用に向けて、さらなる研究が期待されています。現在デューク大学では、化学療法
との併用の可能性や、小児脳腫瘍への応用について検討を行っています。

<元の論文>
N Engl J Med. 2018 Jul 12;379(2):150-161. doi: 10.1056/NEJMoa1716435. Epub 2018 Jun 26.
Recurrent Glioblastoma Treated with Recombinant Poliovirus.

医学博士・元医学研究者
榎本 蒼子

2009年 博士号(医学)を早期取得の上、京都府立医科大学大学院・医学研究科を卒業
2009年 (独)日本学術振興会・特別研究員PD (Postdoctoral fellow)
2011年 京都府立医科大学大学院・医学研究科・博士研究員
2011年 京都府立医科大学大学院・医学研究科 総合医療・医学教育学 助教
2015年 京都府立医科大学大学院・医学研究科を退職

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