今回も患者の治療決定に私たちがどのような思考プロセスで臨んでいるかについての解説
です。

患者の情報:Aさん 68歳 男性
患者の症状:数カ月前から便が少し黒っぽく気になっていたが、なんとなくそのままにしてい
た。最近疲れやすくふわふわするので近くのクリニックで検査してもらったところ貧血があり、
便潜血が発覚。精密検査を行ったところS状結腸がんであり、肺と肝臓に転移があることがわ
かった。今回、医師から化学療法を行うことを伝えられ、いくつか薬の組み合わせの候補が
あるから決めてほしいと伝えられ、治療法は「FOLFOXIRI+Bev」になり、治療を開始していた
が、今回新たに骨に転移がみつかってしまった。

■骨転移に有効な放射線治療・薬剤
骨転移がわかった場合、化学療法の変更も検討しますが、まず手術などで人工骨への交換
などを検討し、それが叶わない場合は痛みを緩和することが求められます。薬剤のことでは
ないため詳細は控えますが、まず転移した骨に対して放射線治療を行います。これは残念な
がら根本治療にはならない緩和的治療であり、痛みなく骨折や麻痺をできるだけ予防しなが
ら生活を送るための方法です。

また、骨転移に対してのみ使用する薬剤としてゾレドロン酸とデノスマブという薬剤があります
(乳がんにのみパミドロン酸というものもあります)。これらの薬剤はBMA(骨修飾薬)と呼ばれ
、骨折や痛みなどの危険性を軽減してくれる効果があります。ただ、4週に1度点滴しなくては
ならない煩雑さと、もし虫歯などがある場合、顎骨壊死という顎の骨が崩れてしまう副作用が
数%と低確率ながら報告されており、投与の前に歯科を受診し虫歯治療・口腔衛生ケア指導
などを受けることが重要です。

また、低カルシウム血症を起こす場合があり、特にデノスマブを使用している患者さんはカル
シウム・ビタミンDのサプリメントを予防的に処方されるケースが多くなります。しかし、これら
の薬剤もおよそ2年以上使用することで副作用のリスクが上昇すると言われており、継続使
用には注意が必要になります。

■新しい治療の選び方
この場合ですが、現在FOLFOXIRI+Cmab療法という治療が効かなくなったという判断のもと、
治療法の変更が検討されます。正直なところ完治は難しくなったと言わざるを得ませんが、少
しでもいい状態で長い時間を過ごすことができるように治療法を考えます。

今回使用した薬剤は「5-FU、イリノテカン、オキサリプラチン、セツキシマブ」になり、他に使
用できる薬剤はVEGF抗体と言われるグループの「ベバシズマブ」「ラムシルマブ」「アフリベル
セプト」、EGFR抗体薬である「パニツムマブ」さらに「レゴラフェニブ」「ロンサーフ」が残ってい
ます。

なるべくすべての薬剤を使い切るように治療を調節する必要がありますが、EGFR・VEGF抗
体に関しては殺細胞性抗がん剤とセットで使わなくてはならないこと、複数の抗体薬の同時
使用は効果がないこと、2次治療での抗EGFR薬についての効果は懐疑的であること、今回
のケースの場合「ラムシルマブ」と比較すると「ベバシズマブ」「アフリベルセプト」の方がエビ
デンスとしては若干有力であること、その場合2次治療には「5-FU」「イリノテカン」を再利用
することが許容されることを考慮すると「5-FU、イリノテカン、ベバシズマブ(あるいはアフリベ
ルセプト)」の3剤を使用した治療を私ならば一番に考慮します。「ロンサーフ」「レゴラフェニブ
」はこれらの治療が全て効かなくなった場合の臨床成績しかなく、後で使用することになるで
しょう。

今回は薬の名前も多く、少々わかりにくかったかもしれません。あくまでこの思考は私個人の
ものですので必ず正解とは限りませんが、医療者が治療法を考える際は、このように、パズ

ルのように現時点でわかっている科学的根拠をもとに取捨選択していることが伝われば幸い
です。

薬剤師
深井

この執筆者の記事一覧

様々な副作用の対処法

医療者コラム

PAGE TOP