前回からの続き

前回まではpatient(患者)という表現が持つネガティブな言霊(言葉の響き)につ
いて触れてまいりました。さて、ここからは対するsurvivor(生存者)という英単語
の持つ言霊について考えてみましょう。

サバイバーsurvivorというのはもちろんsurvive(生存)している人のことですが、
日本語の「生存」という言葉には、どうしても「辛(から)くも生きながらえた(
ている)」というような受動的な語感が付きまとってしまいます。対する英語の
surviveという言葉は日本語の「生存」にはない独特のポジティブな語感を持ちます

こうした違いからサバイバーsurvivorを「生存者」と訳すと、元の言葉が持ってい
る積極的な語感がごっそりと抜け落ちてしまうため、かなりの違和感が生じてしま
います。cancer survivorという概念を「がん生存者」と直訳せずに「がんサバイバ
ー」として日本語にそのまま輸入するのもこうした言霊の違いによるものでしょう。

もともと英語のsurviveはラテン語のsur(乗り越えて)+vive(生きる)に由来し、
この語感を引き継いでいるため、日本語の「生存」より、はるかに主体的で積極的
な響きを持ちます。この語感をあえて日本語の中に探すならば、自立したたくまし
さを感じさせる「生き抜く、生き抜いていく」という表現が近いでしょう
。patient(患者)が病にひたすら翻弄(ほんろう)され、耐え忍んでいる受動的な
姿を連想させるのに対し、survivor(生き抜く人)は病を乗り越え、生き抜いてい
く力強い主体的な姿を連想させます。

昨今のがん療養の長期化は時代の必然であり、がんの診断や治療そのものに勝ると
も劣らず、診断や治療を受けた「その後の時間」の重要性がますます高まってきて
います。ここでいう「その後」とは初期治療中でも、いわゆる終末期でもない時間
も含みます。つまり、まさにその人本来の「人生そのもの」の時間のことです。こ
こに焦点を当て、積極的な意味を持たせるにはpatient(患う人)という言葉よりも
survivor(生き抜く人)という表現のほうが、はるかに適しているように筆者も感
じるのです。

そう、あなたにはpatient(がんを患い、耐え忍ぶ人)ではなく、survivor(がんを
生き抜いていく人)であってほしい。そんな願いが「がんサバイバー」という言葉
には込められているのです。

つづく

総合内科専門医/臨床心理士
飯島 慶郎

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