前回からの続き

そうしたわけで、現在英語圏では患者さんのことを、patience(忍耐、我慢)を連
想させるpatient(患者)という単語では呼ばなくなってきているそうです。では、
代わりにどういう呼び方が用いられているのでしょうか?その答えはclient(依頼者
)です。一般にはクライエントという言葉は、各種コンサルタントや法律事務所など
の士業における「客」を連想させる言葉で、主に契約に基づいた対等の関係を示し
ます。

なるほど、医療においても「自立した一個人」が契約として医療行為を求めている
、と考えれば理解できる言葉です。クライエントという言葉には「助けられるべき
弱者」という含意が全くなく、「自立した主体」という雰囲気が感じられます。そ
の結果、「対等な契約相手、依頼主」というような尊厳が患者さん側に付加される
ことになります。人間というものは案外、こうした無意識的な含意(≒言霊)に影
響を受けやすいものであると、臨床心理学を修めた筆者は強く思います。

例えば、あなたが同年代の人との距離を縮めたければ、1年くらいかけて、呼びかけ
方を、「名字+さん」→「名前+さん」→「名前+ちゃん」→「呼び捨て(または
ニックネーム)」というふうに、意識的に少しずつ変えていってみてください。1
年後には最初に想像もできなかったくらい親密になっているはずです。これも、言
霊の持っている力のひとつといえるでしょう。このように言葉に引きずられて、逆
に現実世界が影響されていくものなのです。

ですから、ある人がpatient(患者)と呼ばれていれば、その人は「患い・苦しむ」
人としての役割を無意識に務めるようになりますし、誰かをpatientと呼んでいれば
、その人は「患い・苦しむべき」人であると考えるようになってしまうのです。

つづく

医師 総合診療医/心療内科医/漢方医/産業医
飯島 慶郎(いいじま よしろう)

臨床心理士/産業カウンセラー/認定産業医
総合内科専門医/家庭医療専門医/東洋医学会認定医

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