さて前回に引き続き、患者さんの治療決定に私たちがどのような思考プロセスで臨んでいる
かについての解説です。まずは引き続き患者さん情報から。

患者さん情報:
Aさん 68歳 男性
内容:

数カ月前から便が少し黒っぽく気になっていたが、なんとなくそのままにしていた。最近疲れ
やすくふわふわするので近くのクリニックで検査してもらったところ貧血があり、便潜血が発覚
。精密検査を行ったところS状結腸がんであり、肺と肝臓に転移があることがわかった。今回、
医師から化学療法を行うことを伝えられ、いくつか薬の組み合わせの候補があるから決めて
ほしいと伝えられている。

■ 治療法が決まったら…
さて、この患者さんは前回の話を踏まえ、化学療法をすることに決定しました。ここでは肝臓と
肺の転移は1カ所ずつで、小さくすれば切除もできるかもしれないということで
、「FOLFOXIRI+Bevacizumab療法」というものに決まりました。吐き気・しびれ・下痢・脱毛の
副作用に分子標的薬による血圧上昇等の可能性もある治療です。これを2週間ごとに行い、
効果に応じて手術が可能かどうか決まります。そうすると、私たちは「なるべく副作用を抑えつ
つ抗がん剤の量を減らさずに済むようにしなくては」と考えます(手術→完治が目的なので、
多少きつくてもやりきることが理想の方針)。

まず、治療開始後すぐに現れる危険性のある吐き気の対策を立てる必要があります。吐き気
に関しては国内では「制吐薬適正使用ガイドライン」という資料があります。抗がん剤による
吐き気の強さをランク付けしているもので、吐き気対策を考える際にベースとなるものです。
どの患者さんにも最高の吐き気止めを使ってあげたいという気持ちはもちろんありますが、そ
れだと1回の治療につき3万円ほどの薬価が必要になります。副作用の面からも医療費削減
の面からも、私たち薬剤師は治療を始める前にその選択についてよく吟味し、検討していま
す。

また、薬剤師は治療に合わせて必要な各種検査の実施について医師と相談します。今回の
場合、治療を安全にすすめるために必要な遺伝子検査(UGT1A1というもの)、肝機能検査、
腎機能検査、尿検査、血球測定について依頼し、その結果によって、そもそも通常の薬の量
での治療に耐えうる体質ではないと判断した場合、完治が目的であっても初回からの薬の減
量を提案することもあります。

今回は前回の「なぜこの治療法を勧めるのか」に引き続いて「治療開始までに行う前準備」に
ついて説明しました。この段階で、患者さんたちからは見えないところではありますが、始まる
前から色々と準備を行っています。次回からは治療開始後ベッドサイドに来る薬剤師は何を
見て何を考えているのかについてお話します。

薬剤師
深井

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