前回からのつづき

たとえば、高血圧患者が血圧変動を怖がって、冬季の入浴を避けたり、糖尿病患者
が血糖値を気にするあまり、親しい友人との会食を断ったりすることがあったとし
ましょう。仮に高血圧や糖尿病が急性疾患であったとすれば、望ましい行動である
といえます。入浴は血圧を変動させる原因になりますし、外食はカロリー計算をし
てつくった家庭の食事よりは血糖値を上げるかもしれないからです。

しかし、高血圧も糖尿病も慢性疾患ですから、こうした努力を続ければ「いつか治
ってしまい、以後は気にしなくて済む」というわけでもありません。そこが、急性
疾患の療養と大きく異なるところです。すなわち、慢性疾患の場合、病の療養に集
中しすぎることなく、病を見て見ぬふりをするわけでもなく、適切なレベルの病の
管理をしながら、日常生活を豊かに楽しみ続けるというバランスが求められるので
す。

すなわち、慢性疾患の療養に大切なのは完璧をめざすのではなく、日常生活や生き
方をなるべく制限しない「ほどほど」の管理です。しかし実はこのことを逆手に取
ると、さらに病に積極的な意味すら持たせることができます。病を悪化させない範
囲で活動を広げることで、いかに自分らしくあろうとするか、いかに人生を積極的
に楽しみ、有意義なものにするのかという「制限があるからゆえの」クリエイティ
ブな人生創造を追求する入り口にもなりえるからです。

たとえば、血液透析をうけている患者さんのなかにも、海外旅行を楽しんでいらっ
しゃる人がいるということが良い例になるでしょう。その人は英語を勉強し、透析
のことを勉強し、海外での治療にも日本の医療保険制度が適応できることを調べ、
海外の医療機関と電話やメールで交渉して万全の準備を期したうえで、旅行に出か
けているそうです。

つづく

総合内科専門医/臨床心理士
飯島 慶郎

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